テーマ:社会福祉
今月から生活保護費の引き下げが始まりました。国はその理由として物価の下落や保護を受けていない人との比較をあげています。なぜ物価の下落や保護を受けていない人との比較が引き下げの理由になるかと言えば、現行の生活扶助基準の設定方法が水準均衡方式と呼ばれる方式を採用しているからです。
生活保護は「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法25条第1項)を保障するための制度であり、生活保護法第3条も保障すべき最低生活について、「健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない」と規定しています。しかしこの規定は抽象的であるため、現実にこの法律を運用するにあたっては、最低生活水準を何らかの方法で確定する必要があります。最低生活水準の設定についてはさまざまな考え方がありますが、これを大別すると最低生活水準を絶対的にとらえる考え方(絶対的水準論)と相対的にとらえる考え方(相対的水準論)があります。前者の絶対的水準論とは例えば最低生活のためには肉が何グラム、魚や野菜が何グラム、必要と言うように個々の品目を一つひとつ積み上げて最低生活費を算出する方法です。この方法はスーパーマーケットで買い物かごに必要な品目を入れていくイメージから、マーケット・バスケット方式と呼ばれています。これに対し、相対的水準論は現行の水準均衡方式が典型で、最低生活水準は、一般国民生活における消費水準との比較における相対的なものとして設定する方法です。わが国では1960年(昭和35年)までマーケット・バスケット方式が採用されていましたが、1984年(昭和59年)から現在まで水準均衡方式が採用されています。
たしかに最低生活のために肉や野菜が何グラム、必要と言われても説得力がありません。それゆえ相対的水準論自体は間違っていないと思います。また物価や賃金が上昇していた時代には相対的水準論が生活扶助基準を引き上げる役割を果たしてきました。しかし現代のようなデフレで、物価も上昇しない時代にあっては水準均衡方式が生活扶助基準を引き下げる理由に使われてしまいます。私はもう一度、絶対的な基準を付け加えるべきだと考えています。そしてその絶対的基準とは、「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法25条第1項)という基準しかないと思います。つまり健康で文化的な最低限度の生活とは具体的にどういう生活なのか、食費は月いくら必要で、本代がいくら、旅行は認められるかといった議論をすべきだと考えます。そういう議論をすれば、「生活保護を受けていて、旅行なんかぜいたくだ」という意見も出ると思います。そういう意見も踏まえ、「人間としての最低限度の生活とはどういうものか」を話し合えばいいのではないでしょうか。
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