テーマ:相続・遺言
相続による不動産や預貯金の名義変更のため、相続分の譲渡や放棄ということを行うことがあります。相続分というのは、遺産全体に対する相続人の割合的な持分のことで、相続分の譲渡や放棄をした相続人は相続分がゼロになり、その後の相続に関与する必要がなくなります。なお、正確には相続分の一部譲渡も可能であり、一部譲渡であれば譲渡人の相続分はゼロにはなりませんが、説明の都合上、全部譲渡を前提とします。
例えば、父A(被相続人)の相続人が子BCDだった場合、BCDの法定相続分は各3分の1です。この場合、BはCに対して相続分の譲渡を行うことができます。これが行われると、相続分はBがゼロ、Cが3分の2、Dが3分の1になります。これに対し、Bが相続分の放棄を行うと、相続分はBがゼロ、Cが2分の1、Dが2分の1になります。
このように相続分の譲渡や放棄を行うとその後の相続に関与する必要がなくなりますが、よく似た制度として相続放棄があります。先の例でBが相続放棄を行うと、相続分はBがゼロ、Cが2分の1、Dが2分の1になります。しかし相続分の譲渡・放棄と相続放棄では下記のような違いがあります。
相続放棄は、その旨を家庭裁判所に陳述しなければなりません(民法第938条)。具体的には、相続放棄陳述書という書類を記入し、添付書類とともに提出します。これに対して、相続分の譲渡・放棄は相続分譲渡証書又は放棄証書に署名押印するだけです。実印を押し、印鑑証明書を提出する必要はありますが、裁判所は関わりません。
相続放棄は、相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内にしなければなりません(同第915条第1項)。相続分の譲渡・放棄にはこのような期限はありません。
最大の違いは、被相続人の借金から免れることができるかどうかです。例えばAに3000万円の借金があった場合、Aの死亡により、BCDが各1000万円の債務を相続します。その後、Bのみが相続放棄をすると、借金はBがゼロ、CDが1500万になります。これに対して、Bが相続分の譲渡・放棄をしてもBCDの借金は各1000万円ずつで変わりません。
なぜこのような違いが生じるかというと、相続放棄には「初めから相続人とならなかったものとみなす」(同939条)という効果があるからです。すなわち相続放棄をしたBは相続人でなくなるので、Aの借金を相続しません。それに対して、相続分の譲渡・放棄をしたBは引き続き相続人なので、Aの借金を相続するのです。
以上から、被相続人の借金から免れたいのであれば、相続分の譲渡・放棄ではなく、相続放棄をする必要があります。
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