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相続・遺言

家族信託はこう使う 2018年12月18日

テーマ:相続・遺言

最近、当事務所が関与した家族信託を紹介します。

母親名義の空き家を売却する予定です。しかし売却しやすい物件ではないので、急いで売却すると売却価格が低くならざるを得ません。そこで時間をかけて売却しようと思うのですが、問題がありました。

母親は現在、老人ホームで暮らしています。今も認知症とは言えますが、まだ空き家の売却について判断能力はあります。しかし時間をかけて売却している間に認知症が進み、判断能力がなくなる可能性があります。そうなったら仮にいい条件で売却できる買手が見つかっても、売却自体ができなくなってしまいます。家の名義が母親である以上、売却にあたっては母親の判断能力は不可欠であり、子などの家族が代わって売却することはできないからです。

認知症などで判断能力がなくなった人が不動産を売却するときに法律が予定しているのは、成年後見制度です。母親に成年後見人が選任されれば、売却は可能です。しかし今回のように空き家の売却だけのために成年後見人を選ぶのはあまり得策ではありません。不動産売却のための成年後見人には司法書士などの専門家が選ばれる可能性が高く、そうなると売却が終わった後も、後見が終了するまで=母親が亡くなるまで、後見人の報酬を支払わなければなりません。

また今のところ判断能力があるのであれば、子に空き家を生前贈与することは可能です。そうすれば家は子の名義になり、じっくり売却活動ができます。しかし不動産の贈与は税金が高いのです。贈与税に加え、不動産取得税、登録免許税がかかります。今回も税金が何十万円になるケースでした。

このような成年後見人も贈与も望ましくないケースでも、家族信託を活用するとうまくいく場合があります。

まず信託の委託者、受益者を母親、受託者を長男とします。
次に下記のような信託条項を設定します。
①信託の目的
本件信託不動産の管理及び処分
②信託財産の管理方法
受託者は、本件信託不動産を管理、処分することができる。
③信託の終了事由
本件信託は、本件信託不動産を売却したときに終了する。

そして信託を原因として空き家の名義(登記)を母親から長男に移転します。
このようにすると今後は長男のみが売却活動をでき、母親の判断能力は問われません。また税金も少なくてすみます。なぜ税金が少なくてすむかというと、信託は名義(形式)のみが移転し、利益(実質)は移転しないからです。その証拠に長男が売却をしても売却代金は母親に帰属します。そのため贈与税、不動産取得税が発生しません。登録免許税はかかりますが、贈与の5分の1以下です。税金が少ないことが信託の最大のメリットだと思います。

近年、家族信託ということばを聞くことが増えてきましたが、私が実際に関わるのは今回のようなケースがもっとも多いです。
なお、今回の家族信託の司法書士報酬は10万円(税別)でした。

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