テーマ:成年後見
成年後見制度がわかりにくいのは、法律の建前と現実にギャップがあるからです。
法律の建前は、認知症などで判断能力がなくなった方は、契約能力がないし、また家族に代理権が認められるわけではないので、なんらかの契約をするときは成年後見人を選任する必要があるということです。
しかし例えば介護の現場では、家族の代理が当然のように認められています。なので判断能力のない方が老人ホームに入居するときは家族が契約書に証明押印し、利用料は本人の銀行口座から引落で支払われるのが通常です。「家族がいても、成年後見人がいなければうちには入居できません」と主張する老人ホームはおそらくないでしょう。そのため老人ホームに入居するためだけに成年後見人を選ぶ必要は実際にはありません。
これに対し、判断能力がない方が自宅を売却する場合には成年後見人が必要な場合が多いです。なぜなら不動産取引では、本人が契約内容を全く理解できないようなときは、さすがに売却を認めていないからです。
結局、成年後見人が必要かどうかは、何をしたいかで変わってくるのです。銀行の定期預金や生命保険を解約する場合は銀行や保険会社に成年後見人を求められることが多いでしょう。しかし普通預金から少額の引き出しをすることは、銀行の通帳と銀行印又はキャッシュカードがあればできますので、後見人は必要ありません。
以上のように、「成年後見人を選ぶべきかどうか」という問題は実はそんなに簡単ではないのです。後見人について考えている方はまずこの点を専門家に相談することをお勧めします。ちなみに当事務所でも相談を受けて、「成年後見人を選ぶ必要はありません」という結論になることも多いのです。
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今月、民法等が改正され、成年後見人が本人の死亡後、火葬、納骨の契約をできるようになりました。
ということは、これまでできなかったということです。成年後見人は本人(成年被後見人)の死亡により後見人ではなくなりますので、本人の死亡後、後見人として契約をすることは原則として認められていません。ですから火葬や納骨を行うことは法律上、認められなかったのです。しかし現実には葬儀などを行う親族等がいないような場合は、後見人が中心となって進めることが周囲から期待されることが多いわけです。そこでそのような場合は事実上、後見人が行うこともありました。今回の法改正はそのような現実に法律を合わせたものと言えるでしょう。
今後、成年後見人は家庭裁判所の許可を得て、「死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結」ができるようになります。火葬とは遺体を焼くこと、埋葬とは遺体を土に埋めることです。なので火葬後に遺骨を納骨することは厳密には含まれないのですが、納骨に関する契約は「死体の火葬又は埋葬に関する契約」に準ずるものとされています。
注意しなければならないのは、葬儀は含まれていないということです。したがって成年後見人は後見事務の一環として被後見人の葬儀を行うことはできません。その理由として法務省のホームページでは「葬儀には宗派,規模等によって様々な形態があり,その施行方法や費用負担等をめぐって,事後に成年後見人と相続人の間でトラブルが生ずるおそれがあるためです」と説明しています。たしかに相続人の意思とは無関係に葬儀を行い、その費用を本人の財産から支出することは避けるべきだと思います。
まとめると、今回の改正で成年後見人が本人の死亡後、火葬、納骨の契約をすることができるようになりました。しかし成年後見人が葬儀の契約をすることはできません。
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今日の中日新聞朝刊に、意思能力が低下した夫の株式を処分しようとしたら、証券会社から成年後見人を選任するように求められた話が載っていました。私も先日、同じような相談を受けました。またその前は、夫の生命保険を解約しようとしたら、保険会社から成年後見人を選任するように求められたという相談を受けました。これから、「証券会社が…」とか「保険会社が…」という話がますます増えてくると思います。
これに対し、意外に「銀行から成年後見人を選任するように求められた」という話は聞きません。これは、銀行の支店に本人を連れて行くという手段がとれるということもあるでしょうが、なによりも預金はキャッシュカードがあればATMでお金が下ろせるからだと思われます。ATMでお金が下ろせるのは普通預金だけであり、定期預金は本人の意思確認が必要とされますが、その時は本人を支店に連れて行って、普通預金に振り替えるという「技」が使えることがあります。証券会社や保険会社は基本的に電話ですべて対応しようとするので、冒頭のような問題が生じやすいです。
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後見人と言えば今では成年後見人を連想する人が多いと思いますが、もともと法律(民法)は後見には、成年後見と未成年後見の2種類があると定めています。
未成年後見は、未成年者(20歳未満の者)に親権者がないとき、又は親権者が管理権を有しないときに開始するとされています。例えば父母が離婚して、母を親権者と定めた後、母が死亡した場合は父の親権が当然に復活するわけではないので、「親権者がないとき」にあたります。
なぜ未成年者に親権者がないときに後見人が選任されるのかというと、未成年者には行為能力=有効に契約などの法律行為をする能力がないからです。そのため未成年者が契約などをするには、法定代理人が代理するか、同意する必要があります。この法定代理人はまず親権者、親権者がないときは後見人です。未成年者とはいえ契約を全くしないことはできないので(例えば高校や大学への入学は契約です)、親権者がないときは後見人を選ばざるをえません。
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後見人の最大の任務は財産管理ですが、本人が施設に入所しているような場合は支払は銀行の口座引落で行われるのが通常です。また年金収入はもちろん口座に振り込まれます。したがって後見人が預金の入出金を日常的に行うことはありません。
逆に意外に多いのは医療、介護、年金などに関する役所への申請や届出です。私が最近、行っただけでも、介護保険高額介護サービス費支給申請、福祉給付金資格者証を得たことによる医療費の還付請求、年金の現況届の提出、市営住宅に関しての収入申告などがありました。こういうことは実際に後見人になって初めてわかることです。
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土曜日は、身元保証の勉強会に行ってきました。高齢者が病院に入院したり、施設に入所するとき、通常、身元保証人を求められます。家族がいれば家族が身元保証人になります。しかし家族が身元保証人になるのが無理な場合は、成年後見人が身元保証人になるように求められたりします。そこで身元保証が成年後見の世界で問題になるわけです。
入院や入所の身元保証を定めた法律はありません。実は、「身元保証ニ関スル法律」という法律はあるのですが、これは被用者の行為によって使用者の受ける損害を賠償することを約束する身元保証契約、すなわち雇用契約の保証について定めた法律です。なので入院や入所の身元保証の内容は当然、明確なものではありません。この点、特別養護老人ホームの職員の方からは、身元保証人の責務として、①入居者の引き取り(身体)、②身の回りのものの引き取り(物品)、③支払いの連帯保証(対価)の3点が指摘されました。私もそんなものだろうと思います。
興味深かったのは、介護保険が始まる12年前までは施設では身元保証を求めていなかったという話です。それまでは行政の措置で入所が決まるので、最終的にはすべて行政が責任を負いました。それが介護保険の施行で「措置から契約へ」転換し、施設が入居者と直接、契約をするようになりました。そこで施設は自らの損害に備え、身元保証を求めるようになったとのことです。つまり高齢者福祉の分野では、身元保証というのは極めて現代的な問題なのです。
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昨日から後見届を提出するため、金融機関を回っています。私が成年後見人に選任された審判が先月末に確定したのですが、成年後見の登記が完了した旨の連絡は今週だったからです。
この点はもう少し説明がいるかもしれません。成年後見人を選任した審判が確定すると、家庭裁判所は東京法務局に対し、成年後見登記の申請をします。この登記が完了するのに、確定から2週間くらいかかるのです。本当は確定後、すぐに金融機関に後見人の届出をしたいのですが、金融機関は登記事項証明書を要求するので、登記完了後になるわけです。
いまだに金融機関で「後見届は初めてです」というような対応をされると、成年後見制度というのは普及していないんだなあと思ってしまいます。後見届を出すだけで一社につき1時間くらいを見込まなければならないのはたいへんです。
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8月7日に成年後見人の選任申立の受理面接を行ったところ、14日に後見人選任の審判が出ました。今回は1週間でした。もっとも受理面接は予約から3週間後でしたし、面接の1週間前に必要書類は予め提出していたという前提がありますが。
受理面接から審判までの期間の長短は、①医師による鑑定、②調査官による本人調査、③関係人意向照会が実施されるか、省略されるかで決まります。今回の申立は、後見相当という診断書を添付しての後見申立でしたので、①②が省略され、また事前にすべての推定相続人の了解を得たので③が省略されて、1週間という短期で審判が出たということだと思います。実は後見相当という医師の診断書をもらうのに、かなり時間がかかったのですが、その話はいずれ紹介したいと思います。
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名古屋家庭裁判所(本庁)は成年後見の専門部署として「後見センター」を設けています。ここでは後見人選任申立時に受理面接を行うというシステムになっています。これは申立書提出時に申立人及び後見人等候補者が同席し、その場で調査を行うというものです。
この受理面接日時は予約が必要です。最近の後見事件の増加により、名古屋家裁では1ヶ月くらい先になることもあります。私も昨日、予約をしましたが、「今は割とすいています」ということで3週間後(!)になりました。なので現状では後見人を至急、選任するということはむずかしくなっています。
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法定後見と任意後見では、後見人を選ぶ時期が違います。すなわち認知症などで判断能力が低下した後で後見人を選任するのが法定後見であり、判断能力が低下する前に後見人を決めるのが任意後見です。その結果、法定後見では本人の判断能力がすでに低下しているので、家庭裁判所が後見人を選任するのに対し、任意後見では本人の判断能力が低下していないので、契約で後見人を決めるいう違いも生じます。
以上は基本ですが、どうも親族が後見人になるのが法定後見、親族以外が後見人になるのが任意後見であると誤解している方がいるようです。前述のように法定後見と任意後見の違いは後見人を選ぶ時期の違いであり、だれが後見人になるかは関係ありません。
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