テーマ:社会福祉
先週の土曜日は、高齢者問題・専門職ネットワークの勉強会に参加しました。テーマは、「精神保健福祉法改正について」でした。障害者福祉では障害ごとに別の法律があります。身体障害は身体障害者福祉法、知的障害は、知的障害者福祉法、そして精神障害は精神保健福祉法です。
この精神障害について定めた精神保健福祉法が今年の4月に改正されました。もっとも話題になっているのは、保護者制度の廃止です。長年、同法には「保護者」という制度がありました。すなわち「精神障害者については、その後見人又は保佐人、配偶者、親権を行う者及び扶養義務者が保護者となる」とされ(旧第20条)、「保護者は、精神障害者に治療を受けさせ、及び精神障害者の財産上の利益を保護しなければならない」(旧第22条)とされました。しかし家族の高齢化等に伴い、負担が大きくなっている等の理由から、今回の改正で保護者に関する規定が削除されました。また講師の方からは、保護者制度が精神障害者の地域移行の妨げにもなっていたという解説がありました。つまり親族が保護者の義務を果たせないという理由から、精神科病院での入院を望んでしまうとのことでした。
テーマ:社会福祉
「『寝たきり老人』のいる国いない国」(大熊由紀子 ぶどう社 1990)を読みました。この本が日本の高齢者福祉、とりわけ2000年から施行された介護保険制度に多大な影響を与えたということは以前から知っていましたが、読んだのは初めてです。
著者は出版当時、朝日新聞の論説委員であり、80年代に北欧(デンマーク、スウェーデン)では日本のような「寝たきり老人」は存在しないということを知って衝撃を受け、本書を著したとのことです。著者は、①高齢者福祉は、施設中心から在宅中心に移行すべきである、②そのために在宅福祉を家族、ビジネス、ボランティアに頼るのではなく、行政(特に市町村)の責任で整備すべきことを提案しています。私は著者の主張に大賛成です。この本の出版から24年が経ちましたが、古さを感じさせません。しかしそれだからこそ、その後の介護保険制度の展開が公的な責任で行われず、著者の提案からかけ離れたものになってしまったのはつくづく残念だと思います。
テーマ:社会福祉
社会福祉小六法には、特定非営利活動促進法は掲載されていますが、会社法は載っていません。このことに表れているように、社会福祉の世界では特定非営利活動法人(NPO法人)が花盛りです。
NPOとは、Non Profit Organization(非営利団体)の略です。非営利とは利益配当や残余財産の分配により構成員に利益を配分できないという意味であって、収益をあげてはいけないという意味ではありません。収益をあげなければ事務所を借りたり、従業員を採用することもできませんので、収益を得ることは当然に認められています。それどころか現在はNPOの育成が国策になっていますので、会社に比べても税制面で優遇されています。
テーマ:社会福祉
10月8日のハートネットTV「動き出した生活困窮者支援」を見ました。先の国会で廃案になり、次の国会に提出が予定されている生活困窮者自立支援法案に対する賛成意見と反対意見をともに紹介するという内容でした。
賛成する意見は、いったん生活保護を受給するとそこから抜け出すのはたいへんである一方、今まで生活保護に至る前の支援策(第2のセーフティネット)がなかったという認識から、生活困窮者自立支援法を評価する考え方です。これに対し、生活困窮者自立支援法は生活保護を抑制することが目的であり、「水際作戦」に利用され、本来、生活保護を受給すべき人が受けられなくなくなるとして、これに反対する意見もあります。
私自身はまだ迷っていますが、番組の最後の「生活保護に消極的な自治体は、生活困窮者自立支援法ができようができまいが水際作戦をするものだ」という湯浅誠さんの意見に説得力を感じました。そう考えれば、懸念はあるがまずはやってみてはどうかということになります。
テーマ:社会福祉
今月から生活保護費の引き下げが始まりました。国はその理由として物価の下落や保護を受けていない人との比較をあげています。なぜ物価の下落や保護を受けていない人との比較が引き下げの理由になるかと言えば、現行の生活扶助基準の設定方法が水準均衡方式と呼ばれる方式を採用しているからです。
生活保護は「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法25条第1項)を保障するための制度であり、生活保護法第3条も保障すべき最低生活について、「健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない」と規定しています。しかしこの規定は抽象的であるため、現実にこの法律を運用するにあたっては、最低生活水準を何らかの方法で確定する必要があります。最低生活水準の設定についてはさまざまな考え方がありますが、これを大別すると最低生活水準を絶対的にとらえる考え方(絶対的水準論)と相対的にとらえる考え方(相対的水準論)があります。前者の絶対的水準論とは例えば最低生活のためには肉が何グラム、魚や野菜が何グラム、必要と言うように個々の品目を一つひとつ積み上げて最低生活費を算出する方法です。この方法はスーパーマーケットで買い物かごに必要な品目を入れていくイメージから、マーケット・バスケット方式と呼ばれています。これに対し、相対的水準論は現行の水準均衡方式が典型で、最低生活水準は、一般国民生活における消費水準との比較における相対的なものとして設定する方法です。わが国では1960年(昭和35年)までマーケット・バスケット方式が採用されていましたが、1984年(昭和59年)から現在まで水準均衡方式が採用されています。
たしかに最低生活のために肉や野菜が何グラム、必要と言われても説得力がありません。それゆえ相対的水準論自体は間違っていないと思います。また物価や賃金が上昇していた時代には相対的水準論が生活扶助基準を引き上げる役割を果たしてきました。しかし現代のようなデフレで、物価も上昇しない時代にあっては水準均衡方式が生活扶助基準を引き下げる理由に使われてしまいます。私はもう一度、絶対的な基準を付け加えるべきだと考えています。そしてその絶対的基準とは、「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法25条第1項)という基準しかないと思います。つまり健康で文化的な最低限度の生活とは具体的にどういう生活なのか、食費は月いくら必要で、本代がいくら、旅行は認められるかといった議論をすべきだと考えます。そういう議論をすれば、「生活保護を受けていて、旅行なんかぜいたくだ」という意見も出ると思います。そういう意見も踏まえ、「人間としての最低限度の生活とはどういうものか」を話し合えばいいのではないでしょうか。
テーマ:社会福祉
名古屋市瑞穂区に司法書士事務所を開業して15年目を迎えました。このたび社会福祉士の登録を完了し、天野司法書士事務所に天野社会福祉士事務所を併設しました。
社会福祉士とは、高齢、障害、貧困などの理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談援助を行う国家資格です。私は当面、福祉の法律についての講演や学習会の講師、社会問題の研究に力を入れたいと思います。具体的には次のようなテーマです。
・生活保護のあり方を考える。
・障害者自立支援法はなぜ廃止されなかったのか。
・「施設介護から在宅介護へ」は本当に正しいのか。
・子ども子育て支援法の何が問題なのか。
・借金問題はこうすれば解決できる。
・相続、遺言について知っておきたいこと。
・成年後見制度の活用法。
社会福祉士の国家試験用のテキストを読んでみて、現行制度に対しあまりにも無批判であることに驚きました。私は現在の福祉制度に対する批判的検討も重視しています。社会福祉士でもある司法書士として一味違った話ができると思います。おもしろそうだと思ったら声をかけてください。
テーマ:社会福祉
本日、4月1日から障害者雇用促進法の法定雇用率が民間企業で1.8%から2%に引き上げられました。これに伴いマスコミでもよく障害者雇用が取り上げられていました。しかし私に言わせれば掘り下げ不足の記事が多かったように思います。
障害者雇用促進法では法定雇用率という制度があり、本日から民間企業で2%になりました。これは従業員の2%以上は障害者を雇用する義務があるということであり、50×0.02=1ですから、50人以上の従業員を雇用する企業は1人以上の障害者を雇用する義務があるということになります。ここで障害者とは、身体障害者または知的障害者を指し、精神障害者の雇用義務はありません。ただし精神障害者を雇用したときは、法定雇用率の算出にカウントできることになっています。
マスコミの多くは法定雇用率の引き上げを歓迎し、精神障害者も法定雇用率の対象に含めるべきという論調でした。もちろん私もそれ自体に異論はありません。しかし障害者の民間企業での一般雇用が進みさえすればいいとは思いません。企業は障害者を法定雇用率を満たすように雇用する義務はありますが、正社員として雇用する義務がある訳ではなく、ましてや自活できるような額の賃金を払う義務があるわけではありません。最低賃金法に違反しなければいいにすぎません。それゆえ一般雇用の障害者の多くはパート、アルバイト、契約社員になっており、月給も10万円にも達しないというのが現状です。マスコミはそういう実態に言及することはほとんどありません。もっと掘り下げた記事を望みます。
テーマ:社会福祉
2月15日に法律講座「生活保護のあり方を考える-キーワードは“ワークフェア”-」の講師をしました。予想を超える30人以上の参加があり、時間をかけて準備したかいがありました。今日は私がキーワードとした“ワークフェア”について書きたいと思います。
ワークフェアとは“ワーク(労働)”と“ウェルフェア(福祉)”の合成語 で、あえて日本語に訳せば、「福祉から就労への移行を重視する政策」と言えるでしょう。日本ではワークフェアを表す単語として「自立支援」という用語がよく使われます。平成17年から実施されている生活保護受給者の自立支援プログラムはワークフェアの典型です。
現在、「福祉から就労への移行を重視する」ことに反対する人はほとんどいないと思います。問題はその手段として強制力をどの程度用るかです。上述の自立支援プログラムは強制力を伴うことには消極的でした。ところが今年の1月に発表された「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」報告では、ある程度の強制力を認める記述があります。私自身は迷っているところですが、ただ一律の強制はうまくいかないと思っています。
テーマ:社会福祉
1月20日(日)に放送されたNHKスペシャル『終の住処はどこに 老人漂流社会』を見ました。
この番組は、介護をする人がいないため自宅では暮らせなくなった老人が介護施設に入居できず、ショートステイをほぼ1ヶ月単位で「漂流」する問題を取り上げたものです。このようなことが起こってしまう直接の原因は番組でも言及されていたように、低所得者でも入居できる特別養護老人ホームが不足していることです。
しかし私はより根本的には、介護保険制度が間違っていると思わざるを得ません。もともと介護保険は、「施設から在宅へ」という考えで、在宅介護を中心に設計されています。しかし現行の介護保険は家族が介護することを前提とする制度で、高齢者が介護を受けながら一人暮らしをできるものになっていません。したがって家族の介護がない人は自宅で生活できません。他方、「施設から在宅へ」ということで介護保険上の施設は不足したままです。その結果、有料老人ホームやサービス付高齢者向け住宅といった民間施設を利用できるだけのお金がない人は住むところがなくなってしまいます。私は「施設から在宅へ」という聞こえのいいスローガンを再検討する必要があると思っています。
テーマ:社会福祉
社会福祉には、高齢者福祉、障害者福祉、児童福祉などがありますが、私が理解するのにもっとも苦労するのは障害児福祉の分野です。障害児も児童ですから障害児の福祉制度は基本的に児童福祉法で定められているのですが、成人の障害者とも共通点があるので障害者自立支援法の影響を受けたりします。つまり児童福祉と障害者福祉の双方を知らないと理解がむずかしい分野なのです。
介護保険法の成立により、高齢者福祉が措置制度から利用契約制度に転換し、障害者自立支援法により障害者福祉にも利用契約制度が導入されました。これに対し、児童福祉では全体として契約制度は認められていなかったのですが、障害者自立支援法の成立に伴い、障害児福祉にだけ利用契約制度が導入されました。これなどは児童福祉と障害者福祉が交差する障害児福祉の複雑性を示す例でしょう。
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