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相続・遺言

預金の仮払制度を利用しました。 2019年11月19日

テーマ:相続・遺言

先日、今年(令和元年)の7月1日から始まった相続預金の払戻制度(仮払制度)を利用しました。これは相続人が他の相続人の同意なくして亡くなった人(被相続人)名義の預金の一部を引き出すことができる制度です。

この制度が始まる前までは、相続された預貯金を引き出すには、相続人全員の同意が必要でした。具体的には、遺産分割協議書又はそれに類する金融機関の書類に相続人全員が実印を押し、印鑑証明書を提出する必要がありました。そのため同意しない相続人が一人でもいると、預金は1円もおろすことができませんでした。これに対し、今回の仮払制度では、各相続人は法定相続分の3分の1までは一人で請求することができます。例えば、相続人が二人の子で、A銀行に父名義の預金が600万円ある場合、一人の相続人は
600万円×1/2(法定相続分)×1/3=100万円をおろすことができます。
また他にB銀行に預金があれば、この1/6の比率で同様に引き出すことができます。

この制度では、各相続人の法定相続分が重要な意味を持ちますので、請求に当たっては被相続人の相続関係(法定相続分)を証明する戸籍謄本等が必要になります。さらに仮払制度を利用する相続人の印鑑証明書も求められますが、他の相続人の印鑑証明書は不要です。

当職は二人いる相続人の一人から依頼されました。被相続人の支払のため、早急に預金をおろしたかったのに、もう一人の相続人と話し合いができないという事情がありました。当職が遺産整理受任者になり、預金の1/6をおろすことができました。

家族信託はこう使う 2018年12月18日

テーマ:相続・遺言

最近、当事務所が関与した家族信託を紹介します。

母親名義の空き家を売却する予定です。しかし売却しやすい物件ではないので、急いで売却すると売却価格が低くならざるを得ません。そこで時間をかけて売却しようと思うのですが、問題がありました。

母親は現在、老人ホームで暮らしています。今も認知症とは言えますが、まだ空き家の売却について判断能力はあります。しかし時間をかけて売却している間に認知症が進み、判断能力がなくなる可能性があります。そうなったら仮にいい条件で売却できる買手が見つかっても、売却自体ができなくなってしまいます。家の名義が母親である以上、売却にあたっては母親の判断能力は不可欠であり、子などの家族が代わって売却することはできないからです。

認知症などで判断能力がなくなった人が不動産を売却するときに法律が予定しているのは、成年後見制度です。母親に成年後見人が選任されれば、売却は可能です。しかし今回のように空き家の売却だけのために成年後見人を選ぶのはあまり得策ではありません。不動産売却のための成年後見人には司法書士などの専門家が選ばれる可能性が高く、そうなると売却が終わった後も、後見が終了するまで=母親が亡くなるまで、後見人の報酬を支払わなければなりません。

また今のところ判断能力があるのであれば、子に空き家を生前贈与することは可能です。そうすれば家は子の名義になり、じっくり売却活動ができます。しかし不動産の贈与は税金が高いのです。贈与税に加え、不動産取得税、登録免許税がかかります。今回も税金が何十万円になるケースでした。

このような成年後見人も贈与も望ましくないケースでも、家族信託を活用するとうまくいく場合があります。

まず信託の委託者、受益者を母親、受託者を長男とします。
次に下記のような信託条項を設定します。
①信託の目的
本件信託不動産の管理及び処分
②信託財産の管理方法
受託者は、本件信託不動産を管理、処分することができる。
③信託の終了事由
本件信託は、本件信託不動産を売却したときに終了する。

そして信託を原因として空き家の名義(登記)を母親から長男に移転します。
このようにすると今後は長男のみが売却活動をでき、母親の判断能力は問われません。また税金も少なくてすみます。なぜ税金が少なくてすむかというと、信託は名義(形式)のみが移転し、利益(実質)は移転しないからです。その証拠に長男が売却をしても売却代金は母親に帰属します。そのため贈与税、不動産取得税が発生しません。登録免許税はかかりますが、贈与の5分の1以下です。税金が少ないことが信託の最大のメリットだと思います。

近年、家族信託ということばを聞くことが増えてきましたが、私が実際に関わるのは今回のようなケースがもっとも多いです。
なお、今回の家族信託の司法書士報酬は10万円(税別)でした。

失踪宣告を利用した相続が終わりました。 2018年04月17日

テーマ:相続・遺言

昨年、このブログで相続人が行方不明の場合の相続について解説しました。

相続人の行方不明⑴
相続人の行方不明⑵
相続人の行方不明⑶

この中の失踪宣告を利用した相続登記が終了しましたので、ご紹介したいと思います。

Aさんのお父さんが亡くなられ、相続人はお母さんとAさん、Aさんの弟Bさんの3名でした。このBさんが30年前に失踪し、音信不通でした。ところが8年前に大阪市の区役所から、Bさんが大阪に住民票を移したという連絡があったので、さっそくAさんたちは大阪の住所地を訪ねました。しかしすでにBさんは引っ越していました。

本来であれば、Aさんのお父さんの不動産の名義をAさんに変更(相続登記)するにはBさんの実印の押印と印鑑証明書が必要です。しかしこのケースではどう考えてもそれは無理でした。他方、Bさんが住民票を移転してから8年が経過しているので、普通失踪宣告が適用できそうです。もし失踪宣告が認めれればBさんは死亡したものと見なされるので、お父さんの相続人はお母さんとAさんの2名になります(Bさんには子供はいません)。

そのような説明をしたところ、当職はAさんから失踪宣告申立書の作成、提出を依頼されました。そこで昨年(平成29年)の6月に家庭裁判所に申立書を提出しました。Bさんの本籍地は名古屋市ですが、最後の住所地は大阪市なので、管轄(提出先)は大阪家庭裁判所です。

すると8月に家庭裁判所から、「裁判所自身の調査が完了した」という連絡があり、Aさんとお母さんの陳述書、お父さんの相続関係説明図、Bさんの財産目録の追加を求められましたので、同月、提出しました。

その後、11月になって官報公告の費用の請求書が届きました。これは失踪宣告をするには官報(政府発行の日刊紙)に「失踪に関する届出の催告」という記事を掲載し、3ヶ月が経過することが必要とされているからです。これを官報公告といい、今回は4298円でした。官報公告は11月に行われたはずです。

翌年(平成30年)の1月末に裁判所から、Bさんの戸籍謄本と戸籍附票を再度、取り寄せた上で、Aさんの照会書といっしょに送付するよう連絡がありました。そして2月5日付でBさんの失踪宣告の審判が出されました。

失踪宣告の審判は2週間の経過で確定するので、確定後、審判書を本籍地のある名古屋市の区役所に提出しました。そして3月にBさんの失踪宣告が記載された戸籍謄本を得ることができました。その戸籍謄本を添付して相続登記を申請し、この4月に不動産の名義をAさんにする相続登記が完了しました。

依頼から登記完了まで10ヶ月でした。当職やAさんが大阪まで行くことはなく、手続はすべて電話と郵送で行われました。

知られていない代襲相続 2017年12月15日

テーマ:相続・遺言

夫が亡くなった妻から「夫には子がいない。兄弟はいたが、みんな亡くなっている。もちろん父母もだいぶ前に亡くなった。」という相続の相談があったとします。このような事例で相続人は誰になるのでしょうか。

相続人の順位は法律で決まっています。配偶者は常に相続人になりますが、子、父母、兄弟姉妹はこの順番で相続人になります。そのため子がいなく、父母、兄弟姉妹が死亡していれば、配偶者だけが相続人になると考えている方もいます。

しかし法律には相続人になるはずだった兄弟姉妹が先に亡くなった場合は、その兄弟姉妹の子が相続人になるとしています。これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と言います。ちなみに兄弟の子(代襲者)も亡くなっている場合は、さらなる代襲相続は認められていません。兄弟姉妹に再代襲(さいだいしゅう)はないのです。

したがって最初の例では、兄弟の子が存命であればその子も相続人になります。最近は相続人の順位について知っている方も多く、子がいなければ(多くの場合、父母は先に亡くなっているので)、兄弟が相続人になることをご存じです。しかしそのような方でも代襲相続を知らない方がいます。「子がおらず、兄弟もみんな亡くなった」という事例には注意が必要です。

相続人の行方不明⑶ 2017年10月18日

テーマ:相続・遺言

相続人の行方不明⑵では、不在者の生死が7年間明らかでないときは普通失踪宣告、それ以外のときは不在者の財産管理人を選任するという制度分担になっていることを説明しました。

そのため例えば相続人の一人が行方不明のため遺産分割協議ができない場合、生死不明になったのが3年前であれば失踪宣告は請求できないので、まず不在者の財産管理人を選任し、遺産分割協議をすることになります。そして相続財産が3000万円で、不在者の法定相続分が3分の1であれば、原則として不在者の財産管理人が1000万円を管理することになります。不在者の相続分を放棄するというような遺産分割協議は認められない可能性が高いです。

では不在者の財産管理人は先の1000万円をいつまで管理しなければならないのでしょうか。不在者の生死が7年間明らかでないときは普通失踪宣告が請求できます。そこで不在者がさらに4年間、生死不明であれば失踪宣告が請求できることになります。失踪宣告が認められれば、不在者は死亡したものとみなされます(民法第31条)。その結果、不在者の相続が開始しますので、財産管理人は相続人に管理している財産を引き渡すことになります。このように不在者の財産管理人の制度と失踪宣告の制度を組み合わせることもできます。

相続人の行方不明⑵ 2017年08月28日

テーマ:相続・遺言

相続人の行方不明⑴では、一般に「相続人の行方不明」と言われているケースの中にはむしろ「連絡先不明」というべき場合が多いということを説明しました。しかしまれに本当の行方不明、すなわち戸籍上は生存しているにもかかわらず、住民票上の住所には居住していない場合があります。このような場合に対処するための制度が民法第25条以下に定められている①不在者の財産管理人と②失踪宣告です。今回はこれらの制度を説明したいと思います。

民法は、第25条で家庭裁判所は「従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という)」のために財産管理人を選任できるとし、第30条第1項で「不在者の生死が7年間明らかでないときは」家庭裁判所は失踪宣告をすることができると定めています。前者が不在者の財産管理人の制度、後者が普通失踪宣告の制度です。つまり不在者の生死が7年間明らかでないときは失踪宣告、それ以外のときは不在者の財産管理人を選任するという制度分担になっています。ちなみに30条第2項は特別失踪宣告を定めていますが、この説明は省略します。

例えば相続人の一人が行方不明のため遺産分割協議ができない場合、行方不明になったのが3年前であれば失踪宣告は請求できないので、まず不在者の財産管理人を選任し、遺産分割協議をすることになります。ただし不在者の財産管理人は原則として保存行為と管理行為しかできないため、遺産分割協議という処分行為をするには家庭裁判所の許可が必要です。そして遺産分割協議について家庭裁判所の許可を得るには、原則として不在者の法定相続分を確保することが必要です。不在者の相続分を放棄するというような遺産分割協議は認められない可能性が高いです。

相続人の行方不明⑴ 2017年06月08日

テーマ:相続・遺言

相続が発生し、亡くなった方(被相続人)の財産の名義を相続人に変更するためには、遺言書がない限り、遺産分割協議書という書類に相続人全員が実印を押し、印鑑証明書を提出する必要があります。ということは相続人の中に一人でも行方不明の者がいると、預金を引き出したり、不動産の名義変更をすることはできなくなります。そこでこの場合は何らかの対処をする必要があります。

まず気をつけなければならないのは、一般に「相続人の行方不明」と言われているケースの中にはむしろ「連絡先不明」というべき場合が多いということです。つまり長年、交流がないため、住所も電話番号も知らない、さらに生きているかどうかも知らないという場合があります。この場合は戸籍謄本と戸籍の附票を取得すれば少なくとも生死と住民票上の住所はわかります。当事務所の経験でも戸籍謄本と戸籍の附票を取得し、住民票上の住所に手紙を出したところ、相手の方から連絡があったということが何件もありました。

問題はこのような「連絡先不明」ではない場合です。すなわち戸籍上は生存しているにもかかわらず、住民票上の住所には居住していない場合です。このような場合に対処するための制度が民法第25条以下に定められている①不在者の財産管理人と②失踪宣告です。次回はこれらの制度を説明したいと思います。

「相続・遺言・家族信託早わかり講座」のお知らせ 2017年03月17日

テーマ:相続・遺言

地元の弁護士、税理士の方と一緒に「相続・遺言・家族信託早わかり講座」を行います。当事務所の司法書士は、家族信託についてお話しする予定です。

相続・遺言・家族信託早わかり講座

日 時 4月19日(水)13:30~16:00
    ※ご予約頂いた方を優先的にご案内させていただきます。

場 所  名古屋市高齢者従業支援センター 4階第2研修室
      昭和区御器所通3丁目12番地1 御器所ステーションビル

講 師
     弁護士 小島 髙志(鶴舞総合法律事務所)
     税理士 伊藤 照治(税理士法人オーティーエー)
     司法書士 天野 勲(天野司法書士事務所)

内 容  変わってきた遺産相続、相続税
     遺言を作った方がいいケースとは?
     今、話題の家族信託とは?

     ご参加希望の方は、お電話にてご予約ください。
     052-853-0409(天野司法書士事務所)

節税目的の養子縁組は有効 2017年02月13日

テーマ:ブログ,相続・遺言

最高裁判所は1月31日、相続税対策で孫と結んだ養子縁組は有効かどうかが争われた訴訟で、「節税目的の養子縁組でも直ちに無効とはいえない」との初判断を示しました。

この判例を理解するには、①なぜ養子縁組が相続税対策になるのか②縁組の意思とは何か、を知る必要があります。

①なぜ養子縁組が相続税対策になるのか
相続税は、相続財産から基礎控除を引いた財産にかかります。基礎控除は現在、3000万円+600万円×相続人の数 です。例えば相続人が実子3名だと、3000万円+600万円×3=4800万円 となります。このケースで孫と養子縁組をしたとします。養子は実子と同じく相続人になりますので、基礎控除は3000万円+600万円×4=5400万円になります。このように相続人の数が増えれば基礎控除の額も増え、その結果として相続税が減るわけです。

②縁組の意思とは何か
民法は当事者間に縁組の意思がないときは縁組は無効とするとしています(第802条第1号)。本件ではこの縁組の意思が祖父にあったかどうかが争点になったわけです。
縁組の意思とは、社会通念上親子関係と認められる関係を成立させるという意思(実質的意思)と解されています。単に縁組届出をする意思(形式的意思)ではありません。そうすると節税目的の養子縁組は実子と同じ親子関係(例えば同居するなど)を成立させる意思がない場合が多く、縁組の意思はないと考えるのが自然ではないでしょうか。しかし最高裁判所は、「節税の動機と縁組の意思は併存し得る」と指摘し、本件の祖父に「縁組の意思がないとはいえない」として孫との縁組は有効としました。

相続税対策として孫を養子にすることは昔から広く行われてきました。それを今になって節税目的があれば養子縁組は無効とするのはあまりにも影響が大きいと最高裁は考えたはずです。そこで「節税の動機と縁組の意思は併存し得る」とした上で縁組の意思を広く解したのではないでしょうか。

相続分の放棄と相続放棄 2016年11月30日

テーマ:相続・遺言

相続による不動産や預貯金の名義変更のため、相続分の譲渡や放棄ということを行うことがあります。相続分というのは、遺産全体に対する相続人の割合的な持分のことで、相続分の譲渡や放棄をした相続人は相続分がゼロになり、その後の相続に関与する必要がなくなります。なお、正確には相続分の一部譲渡も可能であり、一部譲渡であれば譲渡人の相続分はゼロにはなりませんが、説明の都合上、全部譲渡を前提とします。

例えば、父A(被相続人)の相続人が子BCDだった場合、BCDの法定相続分は各3分の1です。この場合、BはCに対して相続分の譲渡を行うことができます。これが行われると、相続分はBがゼロ、Cが3分の2、Dが3分の1になります。これに対し、Bが相続分の放棄を行うと、相続分はBがゼロ、Cが2分の1、Dが2分の1になります。

このように相続分の譲渡や放棄を行うとその後の相続に関与する必要がなくなりますが、よく似た制度として相続放棄があります。先の例でBが相続放棄を行うと、相続分はBがゼロ、Cが2分の1、Dが2分の1になります。しかし相続分の譲渡・放棄と相続放棄では下記のような違いがあります。

相続放棄は、その旨を家庭裁判所に陳述しなければなりません(民法第938条)。具体的には、相続放棄陳述書という書類を記入し、添付書類とともに提出します。これに対して、相続分の譲渡・放棄は相続分譲渡証書又は放棄証書に署名押印するだけです。実印を押し、印鑑証明書を提出する必要はありますが、裁判所は関わりません。

相続放棄は、相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内にしなければなりません(同第915条第1項)。相続分の譲渡・放棄にはこのような期限はありません。

最大の違いは、被相続人の借金から免れることができるかどうかです。例えばAに3000万円の借金があった場合、Aの死亡により、BCDが各1000万円の債務を相続します。その後、Bのみが相続放棄をすると、借金はBがゼロ、CDが1500万になります。これに対して、Bが相続分の譲渡・放棄をしてもBCDの借金は各1000万円ずつで変わりません。
なぜこのような違いが生じるかというと、相続放棄には「初めから相続人とならなかったものとみなす」(同939条)という効果があるからです。すなわち相続放棄をしたBは相続人でなくなるので、Aの借金を相続しません。それに対して、相続分の譲渡・放棄をしたBは引き続き相続人なので、Aの借金を相続するのです。
以上から、被相続人の借金から免れたいのであれば、相続分の譲渡・放棄ではなく、相続放棄をする必要があります。

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