テーマ:相続・遺言
夫が亡くなった妻から「夫には子がいない。兄弟はいたが、みんな亡くなっている。もちろん父母もだいぶ前に亡くなった。」という相続の相談があったとします。このような事例で相続人は誰になるのでしょうか。
相続人の順位は法律で決まっています。配偶者は常に相続人になりますが、子、父母、兄弟姉妹はこの順番で相続人になります。そのため子がいなく、父母、兄弟姉妹が死亡していれば、配偶者だけが相続人になると考えている方もいます。
しかし法律には相続人になるはずだった兄弟姉妹が先に亡くなった場合は、その兄弟姉妹の子が相続人になるとしています。これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と言います。ちなみに兄弟の子(代襲者)も亡くなっている場合は、さらなる代襲相続は認められていません。兄弟姉妹に再代襲(さいだいしゅう)はないのです。
したがって最初の例では、兄弟の子が存命であればその子も相続人になります。最近は相続人の順位について知っている方も多く、子がいなければ(多くの場合、父母は先に亡くなっているので)、兄弟が相続人になることをご存じです。しかしそのような方でも代襲相続を知らない方がいます。「子がおらず、兄弟もみんな亡くなった」という事例には注意が必要です。
テーマ:相続・遺言
相続人の行方不明⑵では、不在者の生死が7年間明らかでないときは普通失踪宣告、それ以外のときは不在者の財産管理人を選任するという制度分担になっていることを説明しました。
そのため例えば相続人の一人が行方不明のため遺産分割協議ができない場合、生死不明になったのが3年前であれば失踪宣告は請求できないので、まず不在者の財産管理人を選任し、遺産分割協議をすることになります。そして相続財産が3000万円で、不在者の法定相続分が3分の1であれば、原則として不在者の財産管理人が1000万円を管理することになります。不在者の相続分を放棄するというような遺産分割協議は認められない可能性が高いです。
では不在者の財産管理人は先の1000万円をいつまで管理しなければならないのでしょうか。不在者の生死が7年間明らかでないときは普通失踪宣告が請求できます。そこで不在者がさらに4年間、生死不明であれば失踪宣告が請求できることになります。失踪宣告が認められれば、不在者は死亡したものとみなされます(民法第31条)。その結果、不在者の相続が開始しますので、財産管理人は相続人に管理している財産を引き渡すことになります。このように不在者の財産管理人の制度と失踪宣告の制度を組み合わせることもできます。
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相続人の行方不明⑴では、一般に「相続人の行方不明」と言われているケースの中にはむしろ「連絡先不明」というべき場合が多いということを説明しました。しかしまれに本当の行方不明、すなわち戸籍上は生存しているにもかかわらず、住民票上の住所には居住していない場合があります。このような場合に対処するための制度が民法第25条以下に定められている①不在者の財産管理人と②失踪宣告です。今回はこれらの制度を説明したいと思います。
民法は、第25条で家庭裁判所は「従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という)」のために財産管理人を選任できるとし、第30条第1項で「不在者の生死が7年間明らかでないときは」家庭裁判所は失踪宣告をすることができると定めています。前者が不在者の財産管理人の制度、後者が普通失踪宣告の制度です。つまり不在者の生死が7年間明らかでないときは失踪宣告、それ以外のときは不在者の財産管理人を選任するという制度分担になっています。ちなみに30条第2項は特別失踪宣告を定めていますが、この説明は省略します。
例えば相続人の一人が行方不明のため遺産分割協議ができない場合、行方不明になったのが3年前であれば失踪宣告は請求できないので、まず不在者の財産管理人を選任し、遺産分割協議をすることになります。ただし不在者の財産管理人は原則として保存行為と管理行為しかできないため、遺産分割協議という処分行為をするには家庭裁判所の許可が必要です。そして遺産分割協議について家庭裁判所の許可を得るには、原則として不在者の法定相続分を確保することが必要です。不在者の相続分を放棄するというような遺産分割協議は認められない可能性が高いです。
テーマ:相続・遺言
相続が発生し、亡くなった方(被相続人)の財産の名義を相続人に変更するためには、遺言書がない限り、遺産分割協議書という書類に相続人全員が実印を押し、印鑑証明書を提出する必要があります。ということは相続人の中に一人でも行方不明の者がいると、預金を引き出したり、不動産の名義変更をすることはできなくなります。そこでこの場合は何らかの対処をする必要があります。
まず気をつけなければならないのは、一般に「相続人の行方不明」と言われているケースの中にはむしろ「連絡先不明」というべき場合が多いということです。つまり長年、交流がないため、住所も電話番号も知らない、さらに生きているかどうかも知らないという場合があります。この場合は戸籍謄本と戸籍の附票を取得すれば少なくとも生死と住民票上の住所はわかります。当事務所の経験でも戸籍謄本と戸籍の附票を取得し、住民票上の住所に手紙を出したところ、相手の方から連絡があったということが何件もありました。
問題はこのような「連絡先不明」ではない場合です。すなわち戸籍上は生存しているにもかかわらず、住民票上の住所には居住していない場合です。このような場合に対処するための制度が民法第25条以下に定められている①不在者の財産管理人と②失踪宣告です。次回はこれらの制度を説明したいと思います。
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地元の弁護士、税理士の方と一緒に「相続・遺言・家族信託早わかり講座」を行います。当事務所の司法書士は、家族信託についてお話しする予定です。
相続・遺言・家族信託早わかり講座
日 時 4月19日(水)13:30~16:00
※ご予約頂いた方を優先的にご案内させていただきます。
場 所 名古屋市高齢者従業支援センター 4階第2研修室
昭和区御器所通3丁目12番地1 御器所ステーションビル
講 師
弁護士 小島 髙志(鶴舞総合法律事務所)
税理士 伊藤 照治(税理士法人オーティーエー)
司法書士 天野 勲(天野司法書士事務所)
内 容 変わってきた遺産相続、相続税
遺言を作った方がいいケースとは?
今、話題の家族信託とは?
ご参加希望の方は、お電話にてご予約ください。
052-853-0409(天野司法書士事務所)
最高裁判所は1月31日、相続税対策で孫と結んだ養子縁組は有効かどうかが争われた訴訟で、「節税目的の養子縁組でも直ちに無効とはいえない」との初判断を示しました。
この判例を理解するには、①なぜ養子縁組が相続税対策になるのか②縁組の意思とは何か、を知る必要があります。
①なぜ養子縁組が相続税対策になるのか
相続税は、相続財産から基礎控除を引いた財産にかかります。基礎控除は現在、3000万円+600万円×相続人の数 です。例えば相続人が実子3名だと、3000万円+600万円×3=4800万円 となります。このケースで孫と養子縁組をしたとします。養子は実子と同じく相続人になりますので、基礎控除は3000万円+600万円×4=5400万円になります。このように相続人の数が増えれば基礎控除の額も増え、その結果として相続税が減るわけです。
②縁組の意思とは何か
民法は当事者間に縁組の意思がないときは縁組は無効とするとしています(第802条第1号)。本件ではこの縁組の意思が祖父にあったかどうかが争点になったわけです。
縁組の意思とは、社会通念上親子関係と認められる関係を成立させるという意思(実質的意思)と解されています。単に縁組届出をする意思(形式的意思)ではありません。そうすると節税目的の養子縁組は実子と同じ親子関係(例えば同居するなど)を成立させる意思がない場合が多く、縁組の意思はないと考えるのが自然ではないでしょうか。しかし最高裁判所は、「節税の動機と縁組の意思は併存し得る」と指摘し、本件の祖父に「縁組の意思がないとはいえない」として孫との縁組は有効としました。
相続税対策として孫を養子にすることは昔から広く行われてきました。それを今になって節税目的があれば養子縁組は無効とするのはあまりにも影響が大きいと最高裁は考えたはずです。そこで「節税の動機と縁組の意思は併存し得る」とした上で縁組の意思を広く解したのではないでしょうか。
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相続による不動産や預貯金の名義変更のため、相続分の譲渡や放棄ということを行うことがあります。相続分というのは、遺産全体に対する相続人の割合的な持分のことで、相続分の譲渡や放棄をした相続人は相続分がゼロになり、その後の相続に関与する必要がなくなります。なお、正確には相続分の一部譲渡も可能であり、一部譲渡であれば譲渡人の相続分はゼロにはなりませんが、説明の都合上、全部譲渡を前提とします。
例えば、父A(被相続人)の相続人が子BCDだった場合、BCDの法定相続分は各3分の1です。この場合、BはCに対して相続分の譲渡を行うことができます。これが行われると、相続分はBがゼロ、Cが3分の2、Dが3分の1になります。これに対し、Bが相続分の放棄を行うと、相続分はBがゼロ、Cが2分の1、Dが2分の1になります。
このように相続分の譲渡や放棄を行うとその後の相続に関与する必要がなくなりますが、よく似た制度として相続放棄があります。先の例でBが相続放棄を行うと、相続分はBがゼロ、Cが2分の1、Dが2分の1になります。しかし相続分の譲渡・放棄と相続放棄では下記のような違いがあります。
相続放棄は、その旨を家庭裁判所に陳述しなければなりません(民法第938条)。具体的には、相続放棄陳述書という書類を記入し、添付書類とともに提出します。これに対して、相続分の譲渡・放棄は相続分譲渡証書又は放棄証書に署名押印するだけです。実印を押し、印鑑証明書を提出する必要はありますが、裁判所は関わりません。
相続放棄は、相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内にしなければなりません(同第915条第1項)。相続分の譲渡・放棄にはこのような期限はありません。
最大の違いは、被相続人の借金から免れることができるかどうかです。例えばAに3000万円の借金があった場合、Aの死亡により、BCDが各1000万円の債務を相続します。その後、Bのみが相続放棄をすると、借金はBがゼロ、CDが1500万になります。これに対して、Bが相続分の譲渡・放棄をしてもBCDの借金は各1000万円ずつで変わりません。
なぜこのような違いが生じるかというと、相続放棄には「初めから相続人とならなかったものとみなす」(同939条)という効果があるからです。すなわち相続放棄をしたBは相続人でなくなるので、Aの借金を相続しません。それに対して、相続分の譲渡・放棄をしたBは引き続き相続人なので、Aの借金を相続するのです。
以上から、被相続人の借金から免れたいのであれば、相続分の譲渡・放棄ではなく、相続放棄をする必要があります。
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「預金は遺産分割から除外される」という最高裁判所の判例が変更されるかもしれないと話題になっています。これはどういう意味なのでしょう?
例えば父の財産を子2名が相続する場合、(遺言がなければ)2名が何をどれだけ相続するかを話し合い、合意する必要があります。この話し合いを遺産分割協議といいます。話がまとまったら、話し合いの内容を文書にして、実印を押すのが普通です。この文書を遺産分割協議書と言います。不動産の名義(登記)を変更するにも預金を解約するにもこの遺産分割協議書と印鑑証明書が必要になります。
では遺産分割の話し合いに預金は含まれなのでしょうか。そんなことはありません。遺産分割協議には不動産や株式、預金などのすべての財産が対象になります。預金を最初から除外する遺産分割協議など考えられません。結局、判例の「預金は遺産分割から除外される」とは、話し合いがまとまらず、遺産分割協議書を作成できなかった場合のことなのです。典型的には家庭裁判所で行われる遺産分割審判での話です。法律的には銀行に対する預金払戻請求権は可分債権なので、裁判所は預金は当然に法定相続分に応じて分割され、他の財産のみが裁判の対象になるとしているのです。最初の例では、預金は法定相続分の2分の1ずつで分割され、預金以外の財産のみが遺産分割の対象になるとされます。
日頃からよく「遺産は法定相続分で分けなければいけないのですか」という質問を受けます。それに対しては、「話し合いでいくらでも変更できます」と答えています。「法定相続分は話し合いをする際の目安にすぎません」とも。そう考えると「預金は当然に法定相続分に応じて分割され、他の財産のみが遺産分割の対象になる」という判例は現実にはほとんど当てはまりません。判例変更もそのような理由から検討されているのでしょう。
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